リズと青い鳥の記事を書いた時には多分もうやらないとは思っていたのですが、細田監督作品の「未来のミライ」を鑑賞して非常に好みな作品だったので感想みたいなことを書いてみます。
どういう作品なのかはパンフレットのインタビューを読めばぶっちゃけ全部わかるので特段この記事を読む必要はないかと思いますが、一応文章化しておきたいと思った次第です。
基本的に「ネタバレを気にしない」方向でいくので注意してください。
また記事中に出てくる画像は全てPVからキャプチャしたものです。
では始めます。
1:未来のミライはどういう作品なのか
パンフレットに書いてありますが、この作品の着想は「朝起きた時に子供にどんな夢を見たのかを尋ねた時に『大きくなった妹に逢った』と答えた」ところからきています。誰もが経験してきたはずなのに「子供は大人と違う反応や行動をするよくわからないもの」みたいなイメージはなんとなく多くの人が持っているかと思います。
それはおそらく親でも同じで「子供ってなんなんだろう? 何を考えてるんだろう? どうやってできないことができるようになっていくんだろう?」という疑問に対する細田監督の回答なんだと感じました。
細田監督の過去の作品として「おおかみこどもの雨と雪」がありますが今回の「未来のミライ」は対になる作品だと個人的には思っています。
おおかみこどもの雨と雪は「親目線」が色濃く出ていましたが、未来のミライは「くんちゃん」という4歳が主人公ということもあって、物語もカメラも基本的には4歳児の目線に寄り添うように描かれています。「子供というのはきっとこういう風に周囲が見えていてこうやって物事を理解したりできるようになっていくんだろう」というのを子供の気持ちになって作られた作品が未来のミライなのです。
くんちゃんの駄々をこねるところや、さっきまで怒ってたのにすぐに機嫌がよくなったりなど、アニメーションの芝居も含めて「あるある」と思わせる描写が多く記号的ではない描かれ方をしているところからも、子供目線を大事にしているというのが伝わって来ました。
2:くんちゃんが過去や未来へタイムスリップしているのは?
こちらもパンフレットにありますが、過去やゆっこのところなどは「空想のシーン」であると書かれています。要は全てくんちゃんの「想像上の出来事」なのです。
これでげんなりする人もいるかもしれませんが、私はこれも作品に沿った演出だと考えています。というのも、実際に子供の頃想像上の友達と会話したりなど現実と空想の区別がついていない時期というのがあります。4歳児の主観であると考えれば、急に犬が人間になって会話しだしたり未来の妹がやってきたりすることもなんらおかしくはありません。ラストの未来へタイムスリップするところも、おそらくくんちゃんの空想です。
そうすると「4歳児だけでお雛様を片付けるのは無理」という意見が出てくると思います。自分もそこは矛盾するところだと思っています。
しかし制作側が気づかないわけないと思うので、あえてそうしていると考えるのが妥当です。もしかしたら本当にくんちゃん一人で片付けたのかもしれないし、おとうさんが忘れているだけで実は片付けていたのかもしれない、そのあたりの細かいことは描かなくても良いという判断をしたのだと個人的には解釈しています(本筋で必要なことではないので「こまけぇことはいいんだよ!」という可能性もありますが)。
またタイムスリップする時は大体くんちゃんの機嫌が悪い時です。怒られたり、嫌なことをやらなきゃいけない時だったり、現実逃避の先として空想の世界へ入るという構造にもなっています。自分のアイデンティティが揺るがされた時に空想の世界へ行き、そこでヒントをもらって現実での折り合いをつけていく。そうやってくんちゃんは「おにいちゃん」になっていく、そんな成長のきっかけをくれる要素としてタイムスリップが機能していると思います。
このあたりもパンフレットの監督インタビューに書かれていますが、私はそう解釈しました。
3:演出、技術的な面について
冒頭でも書きましたが、主人公が4歳児なのでカメラ位置が基本的に低いです。カメラ位置をくんちゃんに合わせることで、見ている人の目線もくんちゃんと同じになるので「子供から見た世界」の表現になっています。もちろん説明のための俯瞰があったり、大人だけのシーンは大人の目線になってはいるんですが、くんちゃんがメインとなっているところはカメラ位置が低いです。
映画冒頭から圧倒される3Dを組んだ背景での空撮からの家のアップをはじめとして、3Dを使った背景の立体的カメラワークというのが多く出て来ます。最初の方のくんちゃんが階段を降りて行くところとかも途中で木で被りながらカメラを回転させている立体感が出ていてとてもよかったです。そういった意味ではかなり現実よりなカメラワークを意識している感じはあります。
カメラ固定で長回しのカットも多かったです。細田監督は割と同ポジだったり長回しだったりを時かけのときぐらいから使ってはいたと思いますが、今回はさらに使われていた感じがあります。アニメにおいて長回しは書く人が大変になるのであまりやらないのですが、それをあえてやるというのは実写を意識していたのではないかと思います。
また対照的にお雛様の片付けのシーンなどで印象的だったのが「人物の移動を直接見せない」という演出ですね。人物全員がフレーム外に出た後にカメラを階段上に向けるとすでにそこに人物がいるというところ(文字だけでの説明が難しい…)。
ともすれば瞬間移動したようにも取られかねないのですが、ある意味で「空想」だと示しているカットなのかなとも思いました(空想シーン以外でも使ってた気もするけど)。
そして何より子供の描き方がものすごくよかったです。動きも含め、親の言葉に対する子供の反応が「実際にありそう」と思わせるだけの力がありました。
4:家の階段について
これも演出に関わってはいるのですが、舞台となるこの特殊な家における階段は重要な意味を持っています。この階段についてもパンフレットに書いてあるので深くは語りませんが、個人的な解釈としては階段の向きは「成長度合い」だと思います。
くんちゃんは最初の頃は階段を下って空想の世界へ入っていっていました。それは「幼児退行」をしていると言えます。しかし未来へ向かう時の最後の空想は家の一番高いところにある浴室です。
これは単純に階段を昇ることを「成長」、階段を降ることを「退行」という意味に当てはめていると解釈しました。
以上、基本的にパンフレットに書いてあることに多少の自分の意見を混ぜただけですが、色々書き出してみました。
あまり深く考えずに子供の気持ちになって現実も空想も全部ひっくるめてそのまま受け止める、というのが一番楽しめる見方なのかな、と思っていたりします。
自分が観た回はあまり席が埋まってなさそうな感じだったのですが、少なくとも公開が短くなったりするのは惜しい作品ですし、細田監督作品の中でも上位に入る出来だと思うので観に行った方がいいかと思います。
・参考資料