原恵一監督最新作のバースデー・ワンダーランドを観てきたので、その感想をつらつらと書いていきたいと思います。
ネタバレを気にせず書くので、まだ観てない方は注意してください!
また、これは個人的な感想ということも付け加えておきます。
では始めます。
1:全体的な感想
まず観終わった後の率直な感想としては「惜しい作品」だと感じました。決して面白くないわけではないが、色々と気になる部分や入り込めない部分があり、可もなく不可もなくという感じです。もちろん印象的なシーンや作画的な見所もあるのですが、それ以上に「ん?」と思うところや「大人が泣いた!」という宣伝との乖離もあり複雑な気分になりました。
また作品全体としてあまり派手なシーンがあるわけではないので、若干退屈してしまうというところもあるかもしれません。
2:物語・テーマについて
お話としては「主人公のアカネが世界の美しさに気づいてちょっと成長する」というのが観てわかるもっとも伝えたいテーマだとは思います。ただ個人的にはそこに少し失敗している印象がありました。
異世界を旅していく中でアカネは美しいものに出会っていきますが、同行しているチィが率先して「綺麗」を見つけているため画面に美しいものが現れても、観客はチィ目線で見てしまうような気がしました。確かにアカネも同じ「綺麗」を目にしてはいますが、それを見た感想を明確にセリフに出しているわけではないし、その綺麗に「心が動かされている」ことがわかるシーンがなかったように思います。(自分が見落としているだけかもしれませんが…)
盛り上がりの一つであるアカネがザン・グを説得するところも、道程で「アカネの心に変化があったこと」が明示的でなかったため、見ている自分としては「いつの間にそんな気持ちの変化があったんだ?」と物語に入り込めなかった感じはありました。もうちょっと言葉や仕草などで明確にアカネの心が動いたことがわかるシーンを入れておけばよかったのかなと思います。
特に砂嵐後の夜空をアカネが車内から見上げるところで、瞳の中に綺麗な夜空が映り込んで瞳が揺らいでいるというようなカットを追加しておけば、アカネの気持ちが動いてたことがわかりやすくなったのではと思います。
また内容として異世界を旅する話なのですが、作中で出てくる単語の説明があまりないまま進むのもあまりよろしくなかった気がします。
その世界特有の単語はファンタジーものではよくありますが、物語に関わる単語なのであれば違和感なく説明する必要があります。説明しないのであれば説明しなくても問題ないような作りにすべきだと思います。「しずく切り」という重要な要素について、それがどういう儀式なのか、どれほど重要なものなのかは単語が出された時に全部すべきだった気がします。「しずく切り」に失敗した場合は、本当にしずく切りの儀式が始まる前に初めて出てきたのは遅すぎた感じがあります。
最初の村でお願いされた「逆さとんがり市への出品」ももう一つの大きな目的でもあったはずですが、その結果が最後あまりにもあっさりした形で片付けられてしまったのも自分としては拍子抜けでした。尺の関係もあるのかもしれませんが、個人的にはここにも何かちょっとした展開があった上での優勝という形にして欲しかったです。
前のめりのイカリも重要なアイテムとして出てきますが、どこからその効力が切れていたのかもよくわからなかったのも気になりました。あえて明確にしていないということも考えられますが「アカネが主体的に動く」というシーン自体が少なかったのも、このアイテムとお話がイマイチ噛み合ってないところなのかなとも思います。
明確な一本のテーマはあるもののその他の要素が強く出てきてしまい、結果として判然としない内容になってしまった印象を受けました。
3:よかった点について
色々と感想を書いてきましたが、よかったところはたくさんあります。
まず異世界の国を巡る話なので国が変わるごとに様々な景色が楽しめて視覚的に楽しくどれも美しいです。
クライマックスのしずく切りでは、湧き上がった水を切って鳥になっていくところは映像の美しさと挿入歌が相まってとても素晴らしいシーンになっていました。
個人的には異世界に行く前、チィが箒を取り出してヒポクラテスと話していたあたりの作画がものすごく上手くて驚きました。
以上、色々と書いてきましたが、全て個人的な感想です。
物足りない感じは確かにありますが、見て損をするというわけでもないので気になる方は観た方が良いと思います。
・参考資料