ソースに絡まるエスカルゴ

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【映画鑑賞】リズと青い鳥の感想と考察

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普段こういう感想文みたいなのはやらないのですが、あまりに素晴らしかった作品なので少し自分なりの感想をまとめたいと思います。ちなみにこの記事執筆時点で2回鑑賞しています。

記事の内容として「ネタバレしまくり」でいくので、未鑑賞の方は読まないようにお願いいたします。

これは一個人の意見であり、間違えている部分など多々あると思いますのでご了承ください。また記事中に出てくる画像は全てPVからキャプチャしたものです。


それでは始めます。


1:リズと青い鳥とはどういう話なのか
 見た人はわかると思いますが、この物語は「鎧塚みぞれと傘木希美の関係性が変わる瞬間を描いた作品」です。

 劇中の絵本である「リズと青い鳥」という物語に合わせて進み、どちらもリズでどちらも青い鳥でいずれ別々の道へと進んで行く、今までの関係と決別するというお話です。みぞれの視点からすると「希美に対する依存からの旅立ち」、希美の視点からすると「才能あるみぞれに対する絶望と諦め」という内容です。

 最初はみぞれ視点でお話が進み、みぞれがリズ、希美が青い鳥という風に進んで行きます。しかしみぞれがオーボエのソロパートの表現方法に気づいた時、みぞれが青い鳥、希美がリズという関係に逆転します。作中で一番の衝撃のあるシーンですね。
 そして長丁場の演奏シーンで希美は実力差に絶望するわけです。理科室での大好きハグでの会話で希美はみぞれに対して「私はみぞれのオーボエの音が好き」と旅立たせる決意を伝えます。そしてそれをみぞれは受け入れ、飛び立つ決意をします。
 あとおそらくですが、希美もみぞれに依存していたんだと思います。「みぞれに頼られている」という立場でいることが自分のアイデンティティの一部になっていたのでしょう。だから実力差を見せつけられたのと、私に頼らなくても飛べるんだ、ということの二重のショックを受けたのだと思います。

 そういう関係性が変わりながらも、ラストシーンで互いに向き合って終了という流れです。派手なシーンは演奏シーンぐらいで地味といえば地味な作品ですが、二人の関係性を本当に細かく丁寧に描いている素晴らしい作品です。


2:みぞれと希美の癖について
 みぞれと希美の癖は何度か出てきます。みぞれは両サイドの髪を手で掴む癖、希美は癖というか足をぶらぶらさせたり手遊びをしたりという感じです。
 みぞれの髪を手で掴む癖については確証はないですが、良くも悪くも心が動いた時に触っていたように思います。OPのところは綺麗なものを見て感動して触る、それ以降は基本的には「否定、反論」をしたりする時に触っていました。
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 次に希美の癖というか足をぶらぶらさせたり手遊びをしたりというシーンですが、これは一般的なものと同じで「言い淀んだり、誤魔化したり」というような場合に用いられています。


3:上手・下手の表現について
 画面には「上手・下手」という概念があります。観客が見ている右側が上手、左側が下手となります。基本的に上手は「強い、格上」みたいな意味合いがあり、下手は「弱い、格下」みたいな意味があります。また下手から上手への移動は「困難に立ち向かう」みたいな意味合いもあります。このようなことは参考資料にある富野由悠季著「映像の原則」という本に詳しく書かれてあります。
 では人物配置においても上手・下手で意味合いがあることを簡単に説明した上で、リズと青い鳥をこの上手・下手の面で見てどうだったかを語りたいと思います。(記憶違いの可能性もあるのでご了承ください)

 まず音楽室に入るまでの希美とみぞれの長尺の歩きです。移動方向は下手→上手で希美が先を行く上手側、みぞれがあとを追う下手側という配置で長時間歩きます。時々俯瞰になったりした時にこの関係が一瞬崩れたりもしていたような気もしますが、基本的にはこの位置関係は守られています。
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 これを映像の原則の論に当てはめてみると「先頭を切って困難なことに立ち向かう希美とその後を追うみぞれ」という関係になります。つまりみぞれは希美に対して憧れを感じているということが画面でも表現されているということです。また途中の昇り階段でも先をゆく希美が当然のように位置的にも上になります。そういったカットを入れるところからもみぞれより希美が上の存在として描かれています。

 しかし音楽室に入ったらその関係は変わります。指揮者から見た位置関係だとみぞれが上手、希美が下手の位置に席があります。オーケストラの配置としてたまたまなのかもしれませんが、後々の実力差という話に合致した位置関係になっています。
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 基本的には正面からのカットが多いのでこのみぞれが上手、希美が下手という関係性は崩れませんが、時々後ろからのカット(背中しか映らないカット)が出てきます。
 この背中からのカットは個人的には「みぞれの主観」のカットだと思います。みぞれの主観としては希美の方が憧れの存在なので希美が上手に位置していると考えると自然です。
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 そして話が進み希美が新山先生に「音大受けたいんです」と告げても音大を薦められなかったあたりから、希美の移動方向が画面左向き(下手方向)ばかりになっていきます。(というか、タイトル前までの歩きぐらいしか希美は上手に向かって移動してなかった気が)
 理科室での大好きハグのシーンでも希美は下手側にいるので、映像としては残酷なまでに「みぞれとの実力差」を表現しています。
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 ラストシーンではOPの追いかけっこの逆を行くように、二人は下って行きます。そして階段のところで立ち止まって二人で話すところではみぞれが上、希美が下という位置関係で実力差が明確になっています。しかし希美はそこで「精一杯支えるから」と実力差を受け入れています。そして坂を下って行く途中で初めて希美がみぞれに振り返ったところで終わります。これは間違いなく二人がようやく「向き合えた」ということをそのまま直接的に表現しています。disjointのdisが消えてjointになるということです。

 反対に面白いのは剣崎梨々花とみぞれの関係です。みぞれが教室で色々作業しているシーンでは梨々花が上手、みぞれが下手になっています。これは梨々花のがグイグイいくキャラなので押す力が強いというのを映像として表現しているのだと思います。あと梨々花が登場する度に陽気な曲がかかるのも、ちょっとしたギャグっぽくなっていて一息つけるシーンになっています。
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 この他にも希美が吉川優子と中川夏紀に「自分勝手だ」と言われるシーンなど、各キャラの立場によってちゃんと高低差や上手・下手がちゃんとコントロール、表現されていたと思います。
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 以上、2回目の観賞中に色々思っていたことをとめどなく書き出してみました。まだ書ききれていない部分とかもっと詳しく書きたい部分もありますが、この時点ですでに長ったらしい文章になってしまっているので割愛します。画面のコントロールが凄まじくうまくいっている作品だと思います。

 とにもかくにも、リズと青い鳥はアニメオタクなら見ておくべしという作品なので、皆さん是非映画館で見ましょう。音響もすごいです。


・参考資料